3.火山活動と防災対策の経緯
(19)岩手山構造探査


 岩手山は25以上の火山が複合した、富士山に匹敵する大きな成層火山であり、その内部の構造はほとんど掌握されていない。火山性地震や地殻変動の観測結果から活動の予測をより正確に行なうには、その内部構造の把握が必要である。

 火山活動の監視と共に、1999年6月25日および同9月30日に東北大学地震・噴火予知研究観測センタ−を中心とする研究グル−プが人工地震探査(発破孔1点・地震計約70箇所)を行なった。さらに、2000年10月19日には文部省の噴火予知計画に基づく構造探査が東北大学地震・噴火予知研究観測センタ−など12大学・機関の参加のもとに実施された。発破点は9点、地震計は350台と国内最大規模のものであるが、発破点3点の費用は岩手県が負担しており、自治体が国の観測に費用を負担して行なうことはまれで、火山防災への県の積極的な取り組みのあらわれといえる。

 ロガ−メモリ−には限度があり、悪天候の場合には観測さらには回収が困難になる事態が予測されたが、幸いに無風に近い快晴の条件下で観測は成功裏に実施された。解析の結果、東岩手山では速度の遅い層が厚く分布し、一方、鬼ヶ城カルデラの下に地表から1km付近まで速度の速い層が貫入しており、過去に繰り返してマグマが貫入したことが推測された。岩手山の3次元構造が求められたことで、火山性地震の震源がより正確に求めることが可能となり、岩手山におけるマグマの動きなど、火山活動の推移を解析出来ることとなった(田中・浜口、2001;田中・他、2001;Tanaka et al.,2002)。

 なお、浜口博之教授等の研究グル−プが、2001年10月3日に開催された日本火山学会で明らかにしたところによると、マグマは1998年2月から4月にかけ2回、山頂直下10数km程度の深部から鬼ヶ城カルデラの下、深さ1〜2km(海水準を基準、地表からではない)に上昇して西側の姥倉山方向に移動、また8月にも深部から深さ1km付近にまで上昇していた(佐藤・浜口、2001)。マグマの上昇による力や熱によって引き起こされる火山性地震は、これまで推定されていたよりも浅い場所で発生しており、地表近くで発生したものもあり、これらの時期には噴火が起きかねない危険な状況にあったものと考えられる。


関連画像 
  ★岩手山構造探査
  ★地震計・発破点位置

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