3.火山活動と防災対策の経緯
(16)火山監視へ産学官民の連携


 地元に火山観測施設のないハンディの克服のため、産学官さらに住民が連携した監視体制の構築が進められた。岩手県の防災へり「ひめかみ」は、県の検討会メンバ−や担当職員らによる機上観測や、西稜線部や不動平へ着陸しての現地調査や観測機器の設置・メンテナの大きな力を発揮した。「ひめかみ」の定検時には県警ヘリ「航空いわて」が機上観測に協力し、また警邏中に撮影したビデオなども随時提供された。報道機関のヘリも取材を兼ねて検討会メンバ−の機上観測の一翼を担った。

 INSに参加する吉田測量設計(株)は、98年6月から自動観測装置が整備される同9月まで、地質調査所の光波測距の実務を担当、国際航業(株)技術センタ−は県の防災航空隊がヘリから撮影した熱赤外映像の解析作業を98年7月15日撮影分から継続しており、また、(社)日本アイソト−プ協会滝沢研究所では、98年11月12日から岩手山周辺約10箇所の湧水や温泉水の科学分析を月に1回程度繰り返し実施している。

 大地獄谷を望む唯一の至近監視点である樹海ラインの下倉スキ−場や反対側の小高倉山には、NHKおよび地元民放各社が遠隔操作の監視カメラを設置しているが、噴気状況に変化がある時には情報を提供し、逆に検討会委員などの要望でカメラを振って調査に協力している。テレビ岩手(株)の監視映像は直接県の消防防災課に分岐され監視可能となっており、また、2000年1月からは、テレビ岩手(株)および岩手めんこいTV(株)の監視ビデオが岩手大学に提供され、大地獄谷や黒倉山の噴気状況の詳細な解析が行なわれている。

 松尾村柏台の土井宣夫氏の自宅では、同氏夫人が99年5月の黒倉山の噴気が活発以降、24時間体制で黒倉山から姥倉山にかけての一帯の植生や噴気状況の変化の観測を行なっており、その経過は随時検討会委員などに報告されている。長期にわたる観測は、防災上はもちろん学術的にも昭和新山の成長を記録した”三松ダイヤグラム”を思わせる貴重なものである。周辺市町村の山に関心のある有志からも噴気状況など山の異常に係わりそうな情報が適宜寄せられる。

 雫石町総務課では小原千里消防防災係長を隊長に、山に詳しい地域ボランティアも含めて「岩手山火山特別調査隊」を組織し、99年6月21日から黒倉山〜姥倉山〜犬倉山一帯の表面兆候の観察や多数の定点での地温測定を行なっている。調査は28回を数え、県防災ヘリ「ひめかみ」からの機上観測結果を補う役目も果たしており、その活動は2001年3月に第5回防災まちつくり大賞の消防科学総合センタ−理事長賞を受賞した。


もどる   もくじ   次へ