1.はじめに


 岩手山(標高2038m)は南部富士とも呼ばれ、北上川とともに岩手県のシンボルである。夏は登山に、冬はスキーに訪れる観光客も多く、また、山麓では小岩井農場をはじめ畜産、農業が営まれている。山の周辺には30万人以上の住民が生活している。県都盛岡市も山頂から約20kmの至近距離に位置する。

 その岩手山で、1998年春から火山性地震が頻発し始め、噴火の可能性が指摘され、同年7月1日から入山規制の措置が取られている。岩手山では過去270年近く大きな噴火を起こしていないため火山防災への意識も培われず、対策もほとんど行われていなかった。防災のための活動をスタートさせて約5年、ゼロからの防災対策の構築は一定の前進をみたものの、活動が小康状態になると共に、急速に防災意識が薄れつつ危惧もあり、長期的な火山との共生の取り組みの難しさも感じている。

 本稿では、今回の岩手山の火山活動と防災対策の経緯を要約し、岩手山との共生を目指した対応の課題について報告させて戴く。なお、国・県・市町村などの地方自治体、ライフライン関係、その他の防災関連機関が連携しあるいは単独に行ってきた火山防災対策は多岐にわたっているが、ここでは、筆者が特にかかわりを持った主な活動を主として述べることになることを、お許しいただきたい。