■ 1999年5月以降の岩手山の表面現象の所見 ■ 

表面現象の顕著な岩手山西側は、盛岡市方面から遠望出来ないため、
 1、岩手県防災ヘリコプター「ひめかみ」などからの機上観測
 2、県の「岩手山の火山活動に関する検討会」委員である土井宣夫(地熱エンジニアリング(株)技師長)・小枝子夫妻による、同氏自宅(松尾村柏台)からの望遠観測
 3、地元報道機関などの監視カメラの映像監視
 4、現地調査
などによって行われている。

 これらのうちで、土井夫妻の自宅からは、黒倉山山頂、黒倉山〜姥倉山の稜線および北斜面が一望でき、また悪天候で観測ができない場合を除いてほぼ連続的に観測を行っているため、唯一連続的な噴気の変化が明らかにされている。
 大地獄谷を観察できるのは、松尾村樹海ラインの下倉スキー場付近のみで、地元報道機関の監視カメラが設置されており、映像は盛岡市の各機関社屋に送られている。映像は連続的送られているものの、常時カメラを操作して監視を行っている状況になく、また映像も基本的に24時間程度で重ね撮り録画されている。社員が異常に気付いたり、土井氏宅や住民から異常との情報があった場合には、県の検討会のメンバー等が社屋に行きカメラを行った状況の把握をさせていただいているが、連続的な監視には至っていない。
 姥倉山〜黒倉山南斜面は、雫石町小高倉や名高倉山に設置した報道機関の監視カメラの視野に入るものの距離が遠く、噴気の状況はヘリコプターによる機上観測時しか確認されていない。
 これらの観測で明らかにされている岩手山西側での表面現象の変化は、別表の要約した通りであるが、その主なものは以下のようである。なお、観測記録の詳細については、土井臨時委員の報告に記載されているので参照されたい。

■ 黒倉山山頂での噴気量の増加
 従来から黒倉山山頂部からは断続的に弱い噴気があがっていたが、5月29日に一時40〜50m程度になり注目された。その後、断続的に同程度の噴気が観測されるようになり、9月1日および9日には東側に約1kmたなびくなど、噴気量の増加が顕著になっている。但し、強い噴気の継続時間は最大でも30分程度である。

■ 大地獄谷での噴気量の増加
 大地獄谷では、噴気温度約140度と高温な噴気や硫黄の蒸着など活動が活発であるが、噴気の高さは10m〜20m程度の場合が多かった。しかし、7月以降、数10m以上立ち上るなど噴気量の増加と新たな地点からの噴気が観測されている。但し、監視が連続的に行われていないため、詳細な変化は把握されていない。

■ 姥倉山〜黒倉山北斜面での笹枯れ区域の増加と新噴気孔群
 姥倉山〜黒倉山北斜面には笹枯れした区域が存在したが、昨年まで噴気の立ち上っっている地点は確認されていなかった。3月26日に融雪孔、5月16日に弱い噴気が確認され、この噴気(北斜面9号噴気孔:西北1号と呼称)はその後勢いを増し、常時10〜30m立ち上るようになった。7月9日には約130m東にたなびき、また、9月30日には100m以上に立ち上る強い噴気が観測されている。西北1号は常時山麓の松尾村から目視できる。
 笹枯れは7月以降急速に拡大し、北斜面の東西約500m、幅100m〜200mで、笹や樹木が虫食い上に茶褐色に変色している。通常は高さ10m以下と規模は小さいが、7月9日に約30箇所、同19日に累計して約40箇所、8月26日に累計して90箇所以上の小噴気が確認されている。9月24日には、西北1号のさらに約100m東側や中腹の立ち枯れた樹木群中でも噴気が見つかり、噴気群の範囲はなお拡大傾向にある。但し、これらの噴気は断続的で、確認されたすべての噴気が一斉に吹き上げる状況にはない。

■ 姥倉山〜黒倉山南斜面での噴気群
 姥倉山〜黒倉山南斜面では笹枯れや裸地が広がっており、昨年も断続的な小噴気がいくつか確認されていたが、9月3日には、北斜面と連動して26箇所から噴気(高さ10m以下)が一斉に立ち上るのが確認された。

■ 大地獄谷西小沢での笹枯れ
 大地獄谷の西の沢(固有名なし、西小沢と呼称)では、雪解けと共に長さ250m〜300m、最大幅約50mと広い範囲で笹枯れが確認されている。積雪下での火山性ガスの滞留によるものと推測されたが、8月17日の現地調査で西小沢下部の黒倉山斜面に新たな笹枯れ区域と95.3度の噴気(西小沢1号)、中部には50.9度の熱水の湧出が確認された。笹のやや変色した範囲はさらに拡大傾向にあるように観察される。
 なお、西岩手カルデラの西壁下にはダケガンバの成長不良帯が広範囲に連なっているのが、7月の機上観測で確認されている。
   

文責:斎藤徳美  「第82回 火山噴火予知連絡会資料」より