■ 2003年1月以降の岩手山の表面現象の所見 ■ 

 岩手山周辺で発生する火山性地震の回数は、1月35回、2月22回と少ない状況で推移し、地殻変動にも大きな変化は見られなかった。その一方で、西岩手山の噴気は強い状態の日が多く、表面現象は活発な状態を維持している。
 第42回「INS岩手山火山防災検討会」(2003年1月25日)以降、ヘリコプターによる機上観測は、悪天候が続いたこともあり、県防災ヘリコプター「ひめかみ」により1回実施されたにとどまった。

 2003年2月18日、県防災ヘリコプター「ひめかみ」、機上観測、9時40分〜10時43分、花巻発着、斉藤・土井・遠藤・小林ら5名
 
「西側での表面現象」
 ◆黒倉山山頂の噴気は観測中に一時的に強まりランク7程度に達した。
 ◆山頂の噴気が強まった10時10分過ぎには、西側裸地の北西小沢の噴気が推定30m以上高く上がり、西側裸地全体からモヤモヤと噴気が立ち上がった。裸地中央の露岩付近からの噴気は機上から観測されたことがあるが、裸地全域からの噴気は今回初めて機上から観測された。
 ◆黒倉山東崖面中腹露岩部が周辺より高温であることが、2003年12月の仙台管区気象台の赤外熱映像で示されているが、昨年以前に比して着雪が少ない。露岩部の温度が上昇している可能性があると思われる。
 ◆大地獄谷の噴気も一時は強まり、ランク7〜8に達した。主噴気孔の硫黄の尖塔は健在であるが、広範囲な硫黄の飛散はほとんど認められない。噴気は主噴気孔の大穴の他、複数の噴気孔から勢い強く噴出し、特に主噴気孔奥の孔の周辺は狭い範囲ながら硫黄が付着。
 ◆西小沢は、3、4号噴気が融雪し、3号からは強い噴気が立ち上がっている。従前に勢いが強かった2号噴気は雪をかぶり目立たない。
 ◆稜線部三角岩、姥倉山登山道、南斜面の融雪部からも弱い噴気が観測された。黒姥北1号は黒倉山山頂の噴気と連動して強く噴気した。
 ◆黒姥分岐から姥倉山方向の登山道南斜面に灌木が枯れた区域が広がっている。同区域は登山道から離れ、灌木の密集のため地温測定はなされていないものの、高温ではないと推測されている。今回、雪を被った同区域の西側にやや大きな噴気孔が1箇所新たに確認された。高温域がさらに西側へ拡大している可能性を示唆している。
 ◆黒倉分岐から犬倉山方向、南斜面中腹の登山道すぐ右側に5箇所の東西に列する噴気孔が確認された。従前の一時期に部分的に笹枯れを生じた区域に該当する可能性がある。噴気孔は今冬に生じたものではないかもしれない。
 ◆網張元湯の噴気は特に強い状態にはなかった。

 国土交通省岩手工事事務所の下倉山監視カメラ、岩手めんこいテレビの小高倉山監視カメラ映像の解析は、引き続き岩手大学で行われ、松尾村県民の森からの目視観測も随時行われている。
 監視カメラのビデオ映像の解析による大地獄谷の噴気ランク(1日での最高ランク)は、2002年11月以降、高い状態で推移している。

「東側での表面現象」
 ◆砂高岳南斜面、、奥宮付近、火口壁南東部に融雪区域があるが、従前からのもので、変化はない。噴気なども機上からは目視されない。
   

文責:斎藤徳美  「第43回 INS岩手火山防災検討会資料」より