■ 2001年9月〜11月西側表面現象ついての所見 ■

 監視カメラのビデオ映像の解析による大地獄谷の噴気ランク(1日での最高ランク)は、2006月末から9月中旬にかけ、2〜4が多く低下傾向にあったが、9月中旬以降5〜8が多くなり、従前と同様のレベルに戻った。主噴気孔周辺には広範囲に鮮やかな黄色の硫黄の付着がみられ、大穴からは泥の噴出が見られる。
 なお、8月28日に東京工業大学の平林順一教授らによる火山ガス調査が実施され、大地獄谷主噴気孔の温度は134度と、2000年9月7日の149度から低下し、火山ガス成分からも活動が低下傾向にあると報告されている。
 黒倉山山頂の噴気ランクも傾向は大地獄谷と同様である。11月19日には、テレビ局ホ−ムペ−ジ画像で午前11時から12時にかけ200m程度の高さに吹き上げるのが見られ、盛岡地方気象台の解析では、早朝には250mの高さに昇っているのが確認された。
 黒倉山山頂の噴気は、2000年1月19日に最大規模を示し(松尾村柏台での土井小枝子氏観測、テレビ岩手監視カメラ映像、「ひめかみ」からの機上観測などの記録あり)、同年11月16日にも高さ250mを記録(盛岡地方気象台)しているが、今回の噴気は約1年ぶりの強いものといえる。
 黒倉山〜姥倉山稜線部および北斜面、姥倉山方向などの噴気は断続的に噴いている。大地獄谷西小沢では、1号噴気より2号噴気が強くなっているが、11月19日の機上観測では、黒倉山崖面に近い3号噴気の勢いが強まる傾向にあるように見られた。

 現地調査、機上観測での詳細を以下に報告する。

1、9月2日、大地獄谷、西小沢現地調査
 1999年8月17日に沢の入り口近くの西小沢1号噴気および熱水湧出地点まで、土井氏らが調査を行なっているが、今回初めて西小沢の全域で現地調査が行なわれた。
 現地調査は、午前10時50分頃、県の防災へり「ひめかみ」で、姥倉山分岐付近に降り、大地獄谷を経由して、午後3時20分頃まで行なわれ、七滝ル−トを経て、午後5時すぎ松尾村の県民の森に下山した。 調査にあたったのは、
  岩手山の火山活動に関する検討会委員:斎藤徳美岩手大教授
                同         :土井宣夫地熱エンジニアリング(株)主席技師長
  盛岡地方気象台:小林徹専門官、 雫石町:小原千里消防防災係長
  岩手県総合防災室:安斎和男火山対策主事、  の5名である。

 大地獄谷の西小沢では、1998年10月頃まで笹や樹木が青々と茂っていたが、1999年4月に融雪と共に沢の流域全体が茶色に枯れているのがみつかった。同年8月には、大地獄谷との合流部に近い笹枯れ地帯で小規模な噴気(西小沢1号)が立ち上り、噴気活動が始まったことが確認された。2000年4月には融雪部は沢底から崖面まで約20箇所に増加、噴気活動が急速に拡大した。現在、大地獄谷との合流部から稜線近くまで、目測で約300メ−トル、幅150メ−トル以上の広い区域で、笹やダケカンバなどの樹木が枯れ、倒壊し、最上部の西小沢2号噴気、最下部の1号噴気を主に、全域で噴気が立ち上っている。高さ10メ−トル以上のダケカンバの巨木が何本も根こそぎ倒れ、荒廃が著しい。黒倉山〜姥倉山南北斜面に見られるような大きな噴気孔はなく、全域からしみ出るように噴気が立ち上り、いわゆるスチ−ミ−グランドといった状況を呈する。地温は全域で95度以上、高いところで96.6度と、黒倉山山頂部や稜線部と同様沸点に近い。また、沢の中腹部から50度以上の熱水の湧出があり、99年8月より湧出量は増加していた。
 噴気に刺激臭はなく、西小沢は大地獄谷と至近距離にあるにもかかわらず、黒倉山〜姥倉山一帯と同様に水蒸気を主とした類似の噴気であることが確かめられた。姥倉山から黒倉山一帯の地下に存在が推測される地熱貯留層が加熱され、亀裂を伝わって地表に達した一連の噴気と同様のものと考えられる。
 当初、沢沿いで笹枯れが発生したことから、西小沢なる名称をつけたものの、現在の笹枯れ、樹木の枯れ死の区域は大地獄に匹敵する広さに拡大しており、大地獄谷西地獄とでも称すべき規模であろう。
 大地獄谷の主噴気孔の硫黄の尖塔は高さ2.5メ−トル、長さ5メ−トル程度あり、周辺には広範囲に硫黄が付着。大穴は周辺部には硫黄の混じった黄灰色の泥が付着し、穴の内部では泥が吹き上がっており、泥の温度は97.2度であった。風向きによっては目がチカチカし亜硫酸ガスなどが含まれている思われる。当日は断続的に大地獄谷の稜線部を越えるランク7程度の強い噴気が立ち上っていたが、従前と大きく異なる変化はないものと考えられる。

2、9月25日および26日機上観測
 9月25日の自衛隊へりによる機上観測観測の際に(10時20分すぎ)、御苗代湖北西側湖面を(最も深い部分の湖岸)主に、気泡が湧出し反射したような光点が多数きらめくのが観察された。、また、写真によると、尾状の浅瀬の入り口付近が白く輝きあたかも硫黄沈殿物があるかのように見られる。御苗代湖では1998年に湖面の一部が白く見えるとの報告がある。98年6月30日午前に読売新聞社ヘリで土井宣夫氏が、湖面に同心円状に気泡らしいものが広がるのを視認、翌月、薬師岳山頂に登った登山者から、湖面に白いものが望遠できるとの情報があり、同月土井氏がヘリで山頂上空を撮影した写真に小さく写った湖の岸付近が白く光っており、気泡かどうかの議論がなされている。
 99年5月23日の機上観測では、解け始めた氷に泥が巻き上がったように茶色に着色しているのが観測されている。
 東北大学浜口博之教授らの構造探査結果に基づく震源の再解析では、98年に湖直下の1〜2kmで地震が発生していたことが明らかにされており、湖底で何らかの火山活動が生じていう可能性が私的された。
 9月26日、県防災ヘリで低空でホバ−リングしつつ詳細に観察したが、気泡などの噴出は確認されず、また、浅瀬入り口付近には大きな水草が繁茂していること判明した。同所での白色の輝きは、水草での光の反射がもたらしたものである可能性が大きいが、気泡の真偽については結論が得られていない。

3、11月19日機上観測
 11時すぎから、監視カメラで強い噴気が観測された黒倉山山頂の噴気は、正午頃には低下し始めた。機上観測は13時35分花巻空港を出発したので、現地到着時は噴気高さは数十m程度でやや強い状況であった。黒倉山山頂南側崖面上部と北側崖面下部の2箇所に強い噴気の束が分離して噴出しているのが、機上から初めて目認された。
 大地獄谷も、監視カメラでは黒倉山側(西小沢沿い)にたなびいて、ランク7〜8に達していたが、機上観測時はやや低下していた。しかし、風が弱いこともあり、谷に巻くように噴気が広がり、機内でも亜硫酸ガス臭が感じられた。
 西小沢は1〜3号噴気が十数m以上立ち上り、特に最後に噴気を上げ始めた3号噴気がかっぱつになりつつある。
 黒倉山〜姥倉山北斜面は、冬季の午後で太陽高度が低くなり逆光で詳細は観察しにくい環境にあるが、黒姥北1号噴気が太くたなびいているのが確認された。

文責:斎藤 徳美  「第34回INS岩手山火山防災検討会資料」より

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