岩手県防災ヘリコプター「ひめかみ」などからの機上観測は、5月25日から10月19日の15回実施され山体全域の表面現象を観測した。これらのうち、5月25日、7月27日、9月7日、9月28日には、機器のメンテナをかねて、姥倉山〜黒倉山稜線部に着陸し、現地調査を実施した。この間における、西側での表面現象の主要な状況は以下の通りである。
■ 大地獄谷・黒倉山山頂部・黒倉山〜姥倉山稜線部・同北斜面の噴気量は、6月から7月にかけてやや少ない日が見られたものの、その後は強い日が継続している。
■ 大地獄谷西小沢周辺での新噴気孔の状況
2000年4月15日に約20箇所と融雪部が増加しているのが観測されたが、沢の最上部の西小沢2号噴気および下部の1号噴気を中心に継続して10メートル以上の高さに噴気が立ち上っている。
■ 黒倉山西斜面裸地の北西小沢での新噴気孔の出現
黒倉山西斜面裸地の北西端には1999年10月に新噴気が確認されているが、この噴気から北西に伸びる小沢で100メートル以上にわたって、数〜10メートルの高さに連なって立ち上るのが7月27日の現地観測で確認された。活動は継続している。
■ 黒倉山〜姥倉山北斜面で初めての現地調査で多数の噴気孔確認
黒倉山〜姥倉山北斜面では、山麓からの監視、ヘリからの機上観測で、東西に連なる断層F1、F2
、F3および南北方向の俗称たて筋などで、多数の噴気が断続的に連なって立ち上るのが確認されている。2メートル以上の笹が密生しているため、これまで現地踏査が困難であったが笹枯れが拡大したため、9月7日および10月8日に現地調査を実施した。
F1、F2、F3それぞれに沿って、幅の広い部分は30メートル以上にわたり高さ2メートル以上の笹が一面に枯れ、樹木の立ち枯れや倒木が顕著である。F3に沿っては、円形の噴気孔(最大値径約1メートル、深さ約1メートル)の噴気孔が東西約130メートルの間に32箇所が確認された。F1ではほぼ東西方向約100メートルの間に同様の噴気孔が33箇所確認された。F2では2箇所と少ないが、縦スジの部分の噴気孔の他、露岩からしみだすような噴気を合わせると合計76箇所からの噴気が数えられた。噴気温度は最高95.4度と沸点に近く、高温である。松尾村柏台からの土井夫人の観測では、噴気が立ち上る地点は100箇所以上確認されており、黒姥北1号噴気周辺など、今回立ち入りが出来なかった区域になお多くの噴気孔が存在するものと推測される。なお、北斜面全体に表層滑りが見られた。F
1では、幅7〜8メートル、長さ約30メートルにわたって、深さ約50センチの滑落がある(今年5月に積雪とともに崩落したのが確認されている)。東西性の断層とほぼ平行な滑落崖に沿っても噴気孔が連なっている。
■ 大松倉山〜三ツ石山での一時的な広範囲な笹枯れ
7月27日の現地調査で、姥倉山山頂から撮影された写真で、大松倉山北東斜面(火口の外側)一体が茶色を帯びていることが指摘され、8月12日に県の防災ヘリ「ひめかみ」で機上観測を行った。変色域は三ツ石山東斜面、三ツ沼東にもあり、大松倉山の区域は幅数10メートル長さ4〜500メートルと広範囲である。
8月18日に雫石町「岩手山火山活動特別調査隊」が現地入りしたところ、笹はすべて枯れているのではなく、枯れた茎と緑の茎が混在し、同一の茎でも緑の葉と枯れた葉が混在しているものが多い状況にあった。地温は、大松倉火口壁外側で、13.3〜15.1度と低く熱的な変化は認められていない。
その後、笹は生育期を迎え、枯れは徐々に目立たなくなり、10月19日の機上観測では変色はほとんど見られない状況に回復した。植物の専門家の見解では、植生上の原因は考えにくいことである。現象が現われた区域が地震や地殻変動の活発な区域であったこと、大地獄谷西小沢や黒倉山〜姥倉山北斜面では笹枯れに続いて噴気活動が活発化した経緯もあるため、今後の変化に注意を払う必要があると考えられる。
■ その他
地温の高い区域は拡大傾向にあり、黒倉山西斜面裸地北側、同裸地下方の円形裸地、姥倉分岐西側では、這い松の枯れが進展し、地温の高い区域が拡大しつつある。9月には、円形裸地南端でも2箇所から弱い噴気(温度95度)が見え始めている。
文責:斎藤徳美 「第87回 火山噴火予知連絡会資料」より