2000年6月19および6月21日に、岩手県防災ヘリコプター「ひめかみ」により、機上観測を行った。5月25日の西岩手の現地視察により、大地獄谷〜黒倉山〜姥倉山周辺で、地温の高い区域が拡大傾向にあることが明らかにされているが、両日の機上観測においてもその傾向が確認された。その主な事柄は以下の通りである。なお、両日とも西岩手全域で噴気活動そのものは低調な状況にあり、黒倉山山頂はランク3、大地獄谷は2〜3であり、姥倉山〜黒倉山稜線部や黒姥北1号噴気はごく弱い噴気を確認できる程度の状況にあった。
■ 大地獄谷周辺での笹枯れ区域の拡大
大地獄谷と西小沢の合流地点周辺の笹が全面にわたって枯れている。西小沢下流の西斜面の広い範囲で、笹の葉が黄色に変色している。この範囲では、昨年の雪解け以降に若干黄色味を帯びる傾向があったが、今回の変色はそれに比べて著しい、ただし、夏季にむかって回復するかどうか、注視する必要がある。大地獄谷最上部の縁に沿って、帯状に笹が枯れている。これらの変化は、今年の雪解けと共に確認されたものである。
■ 黒倉山裸地および西側の円形裸地での這い松の立ち枯れ
黒倉山山頂北東の噴気の顕著な崖面に近い這い松が茶褐色を帯びて枯れはじめている。黒倉山裸地の北縁でも這い松が幹のみ状態になったり、葉が茶褐色をおびて枯れはじめている。さらに西側の円形裸地の中に点在する這い松もその多くが茶褐色に枯れている。黒倉裸地の北縁、円形裸地では3月28日、5月25日に94度以上の高温を示す地点が確認されており、全域で地温が上昇しているものと考えられる。
■ 黒倉山〜姥倉山稜線部および南北斜面
姥倉黒倉分岐から姥倉山山頂方向にかけて、笹枯れと共に這い松が茶褐色に変色している。姥倉山北斜面の樹林帯や黒倉山〜姥倉山稜線南斜面の樹林帯の笹が黄変している区域が点在している、昨年の雪解け以降も部分的に黄変している区域が認められたが、今回はより広範囲に点在している。土井夫妻の柏台観測点からの観測で、これらの区域から連続的ではないが噴気が認められており、本格的な笹枯れに拡大する可能性もあり注視が必要と思われる。
■ 大地獄谷および西小沢
主噴気孔周辺は最近付着したと推測される色鮮やかな硫黄が認められる。また、大穴周辺には数m程度と狭い範囲であるが泥が噴出した形跡が認められる。西小沢の樹木や枯れた範囲に比して拡大し、上部にむかって伸びている。黒倉山東崖面は、冬期に噴気活動が活発であったことから、樹木の枯れが予測されたが、植生は昨年に近く回復している。
■ 黒倉山崖面の亀裂
亀裂が確認されたのは、黒倉山山頂から北北東に約100mの、噴気の著しいえぐれた崖面からくの字に折れ曲がった北東向きの崖面の上部である。広範囲に岩盤の表面が剥がれ落ち、赤褐色を呈する崖面に、ほぼ垂直に10数m亀裂が認められる。機上からの目視のため正確ではないが、開口幅は10cm程度はあるように見受けられた。亀裂は、下部では不明瞭になり2方向に枝分かれしているようである。最上部には暗灰色の溶結した火砕物が地表面に平行に分布する(崩壊せず残った部分かもしれない)が、亀裂はこの部分も切って植生に覆われている。亀裂の深さは不明で、崖面にせりだした岩盤部分が崩落する程度のものか、あるいは東西性の断裂に関係した根の深いものかどうかは判断できない。崖面上部の植生に顕著な枯れや変色は確認されていない。亀裂の生じた時期については、昨年度には同崖面付近の詳細な観察を行っていないため、あきらかではない。ただし、黒倉山の噴気の顕著な崖面付近などに存在する亀裂に比して、開口部がフレッシュであり、比較的新しい亀裂ではないかと推定される。亀裂の存在する崖面では、柏台観測点からの土井夫妻の観測でしばしば噴気が出ていることが報告されており、亀裂から噴気が噴出している可能性もある。また、姥倉山〜黒倉山にかけては東西性の断裂系が多数存在するが、本亀裂がそのような断裂の延長で、大規模な山体崩壊などにつながる可能性を示すものとの証拠はない。
文責:斎藤徳美 「第13回 岩手山の火山活動に関する検討会」より