■ 岩手山、予知連見解の意味 ■

 10月15日に気象庁で開かれた火山噴火予知連絡会(予知連)において、岩手山の火山活動は沈静化に向かっているとの見解が示された。また、1999年10月18日の予知連以降、継続して掲げられてきた「水蒸気爆発の可能性」の文言が削除された。
 一部に「沈静化宣言」などと、一連の活動がすべて終息してと誤解を招きかねない報道も見受けられたので、あらためて岩手山の現状について理解を求めたい。
 これまでの観測や検討から、今回の岩手山の活動がもっとも活発であったのは、3回のマグマの貫入があったと推測される98年である。マグマは地下深部から山体の直下1-2キロメートル(海抜基準)と、地学的にはまさに地表のごく近くまで上昇した。
 幸いその後新たなマグマの貫入は生じておらず、火山性地震は増減を繰り返しながら減少、活動は大局的に低下の方向に向かっていると考えられる。
 しかし、減少したとはいえ、火山性地震の回数は活動が活発化する以前には戻っておらず、特にマグマの活動にかかわる深さ数キロから10キロでの低周波地震やモホ面付近の地震が、断続的に発生している。例えていうなら”退院してもよいが、まだ通院が必要な患者さん”と言えるかもしれない。
 そのため、万一、再び活動が活発化した時に適切な対応を図れるよう、監視や情報発信の体制はできるだけ維持することとしているのである。
 一方、西岩手では、貫入したマグマの熱で噴気などの表面活動が活発化し、現在も継続している。地下からの熱の供給が増加する傾向になく、表面活動も頭打ちの状態になってきたことなどから、周辺地域に被害をもたらすような爆発はないだろうとの認識により、「水蒸気爆発」の文言が削除されたものである。
 しかし、水蒸気爆発の可能性は、ある日突然ゼロになる性質のものではない。特に、噴気孔の閉塞などによる小規模な熱水や熱泥の噴出などは、通常の地熱地域でも発生し得るもので、万一、至近距離で発生したら対処するすべはない。入山には一定のリスクがつきまとうのは避けられないことも事実である。
 それにしても、貫入したマグマが冷却するには、長い長い時間を要する。地温が低下し、噴気孔が埋もれるまで、入山規制を継続するのは現実的ではない。
 姥倉山から黒倉山にかけてのりょう線部の一部は地温が95度以上と高温であり、噴気孔も多数存在する。これらの危険を避けるための木道や防護さくの設置は、登山者のため必要最小限の対策である。
 そのため、防災関係者には最新の注意のもとに安全対策や登山道の整備を進め、2年後ぐらいをめどに西側の入山規制の緩和を提言したものである。
 安全対策の進展と火山の活動とのバランスを熟慮しつつ、火山との共生の道を模索している現状をぜひ理解してもらいたい。
   

岩手日報「論壇」2002年11月1日掲載より

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