■ 今の岩手山、そして今後は? ■

 火山性地震が頻発し始めて4年近くになります。関係者の努力による観測の結果で、地震計、ひずみ計、傾斜計、GPSなどによる、長期間にわたる地殻変動のデ−タが蓄積されました。また、昨年の国内最大規模の人工地震探査で山体の内部の様子が明らかになり、火山性地震の起きている場所がより正確に推定することが出来るようになりました。これらの成果に基づき、東北大学の浜口博之教授らの研究グル−プが明らかにしたところによると、マグマは1998年2月から4月にかけて2回、山頂直下10数km程度の深部から、鬼ヶ城カルデラの下、深さ1〜2km(海抜基準で、地表からではありません)に上昇して西側の姥倉山方向に移動、また、8月にも深部から深さ1km付近まで上昇していました。マグマの上昇による力や熱などによって引き起こされる火山性地震は、これまで推定さてれいたよりも浅い場所で起きており、地表近くで発生したものもあります。これらの時期には、噴火が起きかねない危険な状況にあった可能性があると考えられます。

(今は小康状態、もし次の供給があれば速いかも)
 最近、地殻変動はほとんど止まっており、マグマの供給は納まっていると推測されます。しかし、浅部に貫入したマグマにより地下の蒸気・熱水のたまりが加熱され、西岩手では噴気など表面現象が活発に続いており、水蒸気爆発などの可能性が完全になくなったとはいえません。 今後、ゆっくりと噴気活動も低下に向かい、沈静化の可能性があり、私たちもそう願っています。しかし、気掛かりなのは、マグマの供給源とされる地下30km程度(モホ面付近)での地震や、山頂直下やや深部、10km程度でマグマの活動に関係する低周波地震が継続して発生していることです。11月には地震観測網の整備で観測精度が上がったためかもしれませんが、モホ面付近の地震が27回と3年ぶりに20回をこえて観測されました。1月には、東側やや深部で火山性微動が4回観測(2001年は年間で3回)されました。火山性地震の回数は1月は65回と急増はしておりませんので、大きな変化が起きつつあると心配する状況ではないと考えています。
 しかし、今後、もし、何かの引き金で、再びマグマが上昇を始めたら、すでに地表近くまでマグマの通り道がつくられてしまっているのですから、短時間で噴火に至るとの危惧ををぬぐえないのです。すわ噴火!などと、今、焦る状況にはありませんが、噴火周期が長い火山では、活動は長期にわたることも踏まえて、防災関係者も住民の方も現状を正しく理解しておくことが大切です。

(いつになったら終息!といえるのか)
 始まりより終息の判断が困難です。マグマの供給源とされる地下約30km付近(モホ面)での地震や地下約10kmでのマグマの活動に関連する低周波地震がほとんど発生しなくなれば、活動は終息に向かい、その状態がしばらく、例えば半年程度継続すれば、今回のマグマの活動はまず終息したと判断されるのではないかと思われます。しかし、今はその状況にはありません。
 西岩手山での表面活動は、貫入したマグマが冷却するまでしばらく継続するでしょう。水蒸気爆発などの可能性が絶対になくなったとの判断は、今後の推移をみながら検討するしかないむずかしい問題と認識しています。また、噴気孔や地温の高い場所は危険なため、一般の方々の姥倉山〜黒倉山〜大地獄谷付近への入山規制緩和はすぐにはむずかしと考えられます。

(「今年の岩手山登山は?」東側4ル−トは7月1日から10月14日解禁)
 昨年は、臨時火山情報の適切な公表、登山者への緊急警報システムの整備、登山者の自己責任の啓蒙を基本として、沈静化宣言の出されていない火山での共生の試みが行なわれました。下山者カ−ドの提出率の低さなど様々な課題も残されましたが、観光など地域経済と安全の兼ね合いを求めての、研究者・行政など関係者の努力は住民の方々にも率直に評価、ほめてやってほしいと願っています。
 火山活動に大きな変化がなければ、今年も7月1日午前6時の安全祈願祭から10月14日体育の日の午前9時まで東側4登山道からの入山規制が緩和されます。観光をはじめ、関係者は、岩手山の現状、出来るだけの安全対策を講じていること、登山者にもル−ルを守ってもらうことを、率直に啓蒙して戴きたいと願っています。そのことが、岩手県への信頼をつちかうことにつながると考えます。
 西岩手では、大地獄谷〜黒倉山〜姥倉山一帯で噴気活動が活発です。水蒸気爆発の可能性がほとんどなくなった場合でも、大地獄谷の有毒ガス、登山道にあいた高温の噴気孔などに対してル−トの付け替え、防御柵の設置など多くの対策が必要になるものと思われます。早急な解禁は難しいでしょうが、その時のための対策も早いうちに調査、協議を進めておくべきと考えています。

 なお、我々の願いが届いて岩手山が沈静化に向かうにしても、せっかくゼロから立ち上げられた「岩手方式」の火山との共生の取り組みを継続させる体制作りが今後の大きな課題です。これが引き継がれなければこれまでの努力が水泡に帰しかねない、5年目の正念場です。       

2002年1月27日 岩手山火山防災シンポジウム メモ
         岩手大学工学部 斎藤徳美、(個人的な思いで統一見解ではありません。)

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