■ 入山規制緩和の課題 ■

 七月一日、三年ぶりに岩手山東側四ル−トの入山規制が緩和された。山を愛する一人として大変うれしく思うと共に、火山防災に携わる立場としては、監視や安全確保により大きな重しを背負わされることと、厳しく受けとめている。
 火山性地震の頻発から三年余、幸いにして噴火に至ってはいないものの、活動はなお沈静化していない現状にある。
 安全宣言のだされていない山には登らないのがベストである。しかし、観光をはじめ地域の経済などに及ぼす影響も、地元の研究者として無視はできない。その狭間でのギリギリの選択が、東側では噴火が切迫した状況にはないという評価に基づき、気象台からの臨時火山情報の適切な発表、行政による緊急警報システムの構築、警報の確認や登山者カ−ドの記入等登山者の自己責任を求めるという三本柱を確立した上での規制緩和であったのである。
 しかし、解禁日の一日から三日までの入山者カ−ド提出数千三百九十六枚に対し、下山者カ−ドは三百五十八枚とまさに惨憺たる結果であった。喚起の看板の増設や、登山箱前を必ず通過するようにロ−プを張るなど応急対策を講じたものの、7月15日まで入山カ−ド五千六百三十三枚に対し、下山カ−ドは三千四百九十六枚と、回収率は六十二%に留まっている。もし、異常事態が起きた場合に、未提出者の安否の確認には多大な時間と労力を要し、安全確保は困難となろう。
 三本柱の一本がこの状況では、安全対策を提言、緩和を了承した「岩手山火山災害対策検討委員会」は規制緩和の撤回を求めるべきとすら考える。防災担当者や警察官が二十四時間体制で登山口に立つことは現実的に不可能である。緩和の目的を考えれば、観光サイドなどから、旅館・ホテル・ペンション、旅行業者を通じて啓蒙を図るなど、労をいとわなければ絞れる知恵も多々あるのではないか。防災担当まかせではない真剣な対応を望みたい。
 焼走り、上坊コ−スでのトイレ要望もだされている。平笠不動小屋が西側での水蒸気爆発の危険性から立ち入り禁止とされており、山頂を越えた不動平小屋まで辛抱を強いるのは、無理である。簡易トイレの新設、携帯トイレの使用可能な空間の確保など当然考慮しておくべきではなかったか。多数の登山者集中することを踏まえたこまくさ群生地の保護策も自然保護サイドで必要ではなかったか。
 安全宣言の出されていない火山で、でき得るかぎりの安全対策を実施して、入山規制の緩和を図る試みは例を見ない。関連機関が垣根を越えて、連携して共生を目指す「岩手方式」は全国的にも注目されている。県の総合計画に掲げる「岩手地元学」から「岩手スタンダ−ド」として発進する実践の一つとも位置付けられる。それ故、万一事故を起こしたならば、それは岩手方式の失敗とのレッテルを貼られることになる。
 努力はしてきたが、行政の連携はなお不十分である。山の自然を壊さず、安全を自ら確保するという登山者の自己責任を啓蒙するため、行政は連携し知恵をだし汗を流して欲しい。

岩手日報「論壇」 2001年8月2日掲載より

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